偽りの仮面

監視されているなと、C.C.は感じていた。
いつものルルーシュの部屋のいつものベッドで、いつも通りルルーシュのシャツを着て、スラリとした長い足を惜しげも無く晒しながら寝転がっていたが、この部屋はいつもと何処かが違った。
見られている。
監視されている。
長年培ってきた勘がそう告げていた。
不老不死の身体を抱えて数百年生きてきたことも、魔女を名乗るのも伊達ではない。C.C.はいつも通り警戒心の欠片もない姿で寝転がりながら、さて、どこの誰だ？と考えを巡らせた。
まず疑うべきはルルーシュか？実はムッツリスケベの変態野郎で、この美少女である私の痴態を記録するために監視カメラでも仕込んだか？普段のそっけない態度は演技で、心の中では、美しくも愛らしい私の姿にドキドキしてたのか？
それはなかなか可愛いと思うし、悪戯心が湧いてくる。カメラの位置を把握さえできれば、雄を刺激する姿を見せてやってもいいが、まあ違うだろうな。
では、軍が私に、いやルルーシュに気がついたか？
もしそうなら、私がここに来て何時間だ？
昨夜来て、今はもう昼近くだ。
その間何もアクションがないのはおかしい。
来るなら、ルルーシュと一緒にこのベッドで寝ている時に来るべきだ。
私か、あるいはルルーシュがいる時間を調べるための物で無いならやはり監視か？どちらにせよ、ルルーシュが軍に見つかった報告はマリアンヌから来てはいない。今、コーネリア達にルルーシュが見つかるのはシャルルとマリアンヌにも都合がわるいから、ルルーシュとナナリーを連れて逃げるために、その情報を私に流すはずだ。
だからマリアンヌが沈黙を守っている以上軍は関係ない可能性が高い。
クロヴィスのように独断で動いている可能性は否定しないが、コーネリアとクロヴィスでは正確が違いすぎるから、もしルルーシュを見つけたなら、即護衛代わりの軍隊を率いてやってくるだろう。
やはり監視をするのはおかしい。
では、後は誰だ？
ルルーシュの隠れ親衛隊とかいう連中か？
生徒か教師で、こういう物にい強い人物が仕掛けた可能性もありえる。
なにせあいつはモテすぎる。
女からも、男からも。
リヴァルなんかは盗撮したあいつの写真を欲しがる連中に売っているらしい。
悪友の写真を売って商売するのだから、なかなか商魂たくましい男だと感心する。
シャーリーは大のお得意様で写真の大半を持っているらしい。
一番売れたのは休み時間、無防備に芝生の上で寝転がっている写真だと聞いた。
・・・全て、ナナリーからの情報だから、まず間違いはないだろう。
リヴァルは購入者に、絶対ネット上に上げないこと、そして誰かに売ったりしないことを約束させ、もし破られた場合は二度と販売しないと言っているため、誰もその言いつけを破るものはいなかった。
だが、写真や遠くからルルーシュを見ているだけでは満足できなくなった誰かが仕掛けることが無いということにはならない・・・いや、一番可能性が高いんじゃないか？そんなルルーシュのベッドに美しい少女がいて、一緒に寝ていたと知ったら、さてどんな反応を示すのか。

「暇だし、あぶり出してやろう」

ルルーシュの事が好きなのだろう？
愛しているという意味で。
間もなく放課後。
ルルーシュは今日は買い物があるから遅くなると言っていた。
黒の騎士団としての買い物だから独りでだ。
ルルーシュのストーカーならあいつを着けるか、この映像を確認するかの二択。
私は起き上がるとクローゼットを物色し、あいつの私服と下着を取り出す。
今まで身に着けていた女物の下着を、わざと色気を出して脱ぎ捨てる。
そして、明らかにサイズが異る男物の下着を身につけ、私服に着替える。
脱ぎ散らかしたシャツもルルーシュのもの、下着だけ私のもの。
さて、こんな服に着替えた私が再びベッドに潜りこんだら、監視をしている誰かさんはどう反応する？何を考える？男か女かは解らないが、監視をしている者の妄想を膨らませるような動きでもするべきか？そこまでサービルする必要はないか？
そんなことを考えていると、部屋の扉の前まで誰かがものすごい勢いで走ってきて、扉を開けようとした。だがあいにくと、先ほどしっかりと施錠済みだ。躊躇うこと無く開けようとしたところを見ると、あれだけ警戒心が強いくせに、何故か普段はあまり施錠をしていない事を知っている人物か。
どうやら入れないことに苛ついたらしく、部屋の外の人物は扉を蹴った。
ものすごい音と、エラー音が鳴る。
その瞬間、扉がありえない音を発して震えだした。
ガガガガガガと、閉じようとする扉と、開こうとする力がぶつかり合う音・・・C.C.は思わずベッドの中で様子を見ていたが、ハッとなりベッドから起き上がった。枕の下に隠していた銃は回収する。着替えも終わっているから、最悪窓から逃げようと、ブーツを手に窓の近くへ移動する。
そうしている間に、親友者を拒絶する扉が次第に開いていく。

「・・・そういえば、以前これに似たものを見たな」

先日、目の前で。
あの時は銀行のシャッターだったか。
徐々に開かれる扉の向こうには、怒りで目を細めたあの童顔男が、鬼のような形相でこちらを睨みつけていた。